希が大好物だった食べ物に干し柿があります。
近所の人の所有する山の中にある、山柿で作った、干し柿です。
見た目は悪く、形もいびつなもの、色も黒っぽい箇所があります。
市販のような、きれいな柿ではありません。
天日で干し、二酸化硫黄で燻煙処理などしない、手作りの干し柿です。
味は、甘さは控えめ、人によっては物足りなさを感じるかもしれません。
そんな干し柿を、希は、口に入れては目をつぶって時間をかけて食べます。
山で実っている柿や、私が皮をむいて作っている姿でも思い出しているのでしょうか?
とてもきれいな食べ方をしています。
食べ物に感謝する、とは言いますが、本当の意味で深く考えて食事できる人は多くはいないでしょう。
目をつむって、何か祈るように食べている姿は、きれいでした。
1月に入って、食事が徐々にできなくなって、辛かったと思います。
それでも、食べ物に対する感謝は人の倍以上あったはずです。
今、私も一口、干し柿を口にしました。
ほんのり甘く、口に広がる味です。
以前、お土産で有名店のきれいな干し柿を頂いたことがあります。
きれいな包み紙で、優雅な気分を味わえました。
見た目や雰囲気は、市販の高級な干し柿には叶いません。
しかし、じわーっとくる、優しい味わいは、決して市販の干し柿には負けていません。
希も、手作りの干し柿のことをよく話していました。
「深みがある」と。
農家の方のように、柿を管理しているわけではありません。柿の品種も一般的なものとは違うようです。
後味が優しく残るのは、自然の中で人の手を借りずに生きてきた、柿ならではでしょう。
希にもお供えをしておきます。
猫たちが加えて持っていかないようにしないといけないのですが、
干し柿、希とよく食べた、懐かしい食べ物です。
ことしも、懲りずにまた干し柿は作る予定です。